画廊の仕事とは何か?を書くことをしばし休んで、画廊と作家との関係が生まれた最初の出会いとなる安倍安人先生について少し触れてみよう。
20年以上前か、知人の紹介で安倍先生のアトリエを訪れたのが最初の出会い。広い庭の一部に母屋があり、それにつながる倉作りの離れがアトリエだった。
6畳くらいの板間の中央に囲炉裏があり壁際には古い家具がずらり。しっかりと時代のある李朝家具というのを後で先生に教えていただいた。
その家具類のなかでやや小ぶりな箪笥の上に一本の徳利があった。小さいわりにはデンと構えて座っており、なにかずいぶん古い焼き物だな~という印象を持った。
先生と通り一遍の挨拶を交わし、後は、自己紹介的に西条で画廊を始めたいきさつや扱っている画家の話しをしつつそっと先生の顔を窺う。
端整な顔立ちで鼻が高く、意志の強そうな鋭い目と口元。しかし笑顔には人懐こさが溢れている。
絵画中心の画廊ということでそれならばと先生がご自分の画家時代の経験を面白くかつ刺激的に話し始められる。語りも実ににこやかで僕の緊張もとけほっとする。
関わった画商や同期の画家(現在は大家)のことなど、リアリティじゅうぶんの話題は尽きることなく深夜近くまで及んだ。
話の弾みすぎで早午前様の時間。
知人と慌てて帰り支度をするが、例の徳利がどうしても気になり「先生、この徳利はよほど古いものですか?」と、意を決しておたずねする。
「いや、これはぼくが作ったものです」の答え。このとき、なぜか背中が一瞬ぞくっとする感覚が走り、反射的に「譲ってください」の言葉がでてしまう。
焼き物の知識もなく、まして古備前など見たこともない人間が魅入られてしまうほどの徳利を目の前にいるこの人が作っていたとは。
先生は少し考えられて、おもむろに「最初の出会いは大事だからよりいい作品を持ってもらいたいのでもう一本見ますか」といわれ、奥の間から別の一本の徳利を持って来られた。
深夜車を飛ばして帰り、寝ている家内を無理やり起こし、手に入れた徳利を「見ろ、見ろ」と見せたことが今なお鮮明に思い出され懐かしい。
出会いの徳利が現在までの先生とのつながりを強固に結んでいる。